夏祭り 2

 

 

簡略 前回までのあらすじ

夏なので夏祭りに来た。たまたま古い友人たちも集まっていると聞いたので、連絡を取って混ぜてもらうことにした。いま待ち合わせの場所に向かっているところだが、腹が減ったのでからあげを食べたり、なんか狐の妖怪に会って饅頭を食わされそうになったりした。

 

 

そろそろ待ち合わせの場所かと思い、改めて地図を見る。一つ隣の通りで、知らぬ間に通り過ぎていたらしい。振り返って歩き始める。久しぶりに会う奴らだ、どんな顔をしているだろう。会って僕はうまく話せるだろうか。夜の冷たい空気を吸い込んで、辺りは黒い夜空に緑の木ががさがさ揺すられている。ごみ箱を見かけたので手にしていたからあげの包みを捨てて、角を曲がると、突然眩しい光が差した。

 

一面明るくなって、目が痛い。なんだかむせ返るような感じがして、げほげほと咳をした。周囲の明るいのにも慣れてきて、目を開けると、そこは自分の部屋の、ベッドの上だった。

 

夢か? 辺りを見回すが、たぶん僕の部屋で間違いない。僕はベッドに半身を起こして腰かけていた。慣れた手つきで這い出し、照明を付ける。時計を見ると朝の6時となっている。ドアを開けるといつもの廊下で、外では車の走る音がする。

 

さっきまでの夏祭りはどこへ行ったのだ? 夢オチ、と思ったがこれは物語じゃない、現に今まで僕はあの石畳の上を歩いていたのだし、狛犬も見たしからあげも食べたのだ、スマホ片手に彼らと合流するはずだったのだ。こんなリアルな夢があるものか。それとも本当に夢なのだろうか。

 

困惑しながらも僕は服を着替えて、水を飲み、朝食を食べた。今僕が生きているのは間違いなく現実だと言える。あんなリアルな夢があるのなら、これだって夢かもしれない、という気分になるが、まさか今食っているこのトーストが、この大きな欠伸が、この明るい日差しが全部夢だとは思えない。今また何かの拍子に、突然別の景色に飛ばされやしないがろうか。

 

外へ出てしばらく歩いてみる。別にどうということもなく過ごせていて、さすがにこれは夢ではないなという確信になってきた。なんだ、変な夢を見たくらいで脅えすぎなのである。だんだん内容も思い出せなくなってくる。確か、どこかへ行こうとしていたのだ。その途中で目が覚めて、変な感じになったのだ。

 

部屋へ戻るころにはすっかり気も晴れた。ぼんやりツイッターを眺めたりして、また日々の喧騒に飲まれていく。さっきまでの不安の種も、もう思い出せない。年のせいだろうか? ベッドの上でひどく自分がうろたえていた覚えがあるが、変な夢でも見たんだっけか。内容はなんだったか? 怖い夢と言えば追われるとか刺されるとかだけど、そんなんだったか。もうよく思い出せない。

 

今日は休みなのである。もう夏が来ているのだ。暑いのでみんな薄着になり、休みもあるのでなんとなくどこかへ遊びに行きたくなる。僕もつられて、なんとなく出かけたい気分になった。海がいいだろうか。山がいいだろうか。

 

風のうわさで、今日たまたま夏祭りがあると知った。電車で四駅先の、よく知った神社の周りでやるらしい。古い友人からたまたま連絡があり、僕も一緒に行くことになった。あの神社へ行くのも彼らと連絡を取るのももう四年ぶりくらいになる。どんなテンションで会えばいいのかわからないが、まあなんとかなるだろう。夏は雑に生きていても許される感じがある。

 

浴衣の人間にもみくちゃにされながら僕らは電車に揺られ、やがて着き、出店を見ながらゆらりふらりと歩いていた。四年ぶりに会う彼らはみんなちょっとかっこよくなっていた。チャラくなった奴もいれば、パっとしなかったはずの奴が精悍な顔つきになっていたりする。僕はどう見えているだろうか。彼らと並んでいるだろうか。なんとなく背筋を伸ばしたりしてみる。

 

射的をやりたいと言い出した奴がいて、そいつは三発中一発だけ当てて何かのキャラクターの人形をもらった。なんやねんこれ、いらねー、と言いながら自慢げに見せてみたり、大事にカバンにしまっていた。僕もこういうゲームは好きなので挑戦してみる。一発目はひどく外れた。初めて撃ったのだから仕方がない、もっと真っ直ぐ構えて、撃つ時の反動を抑えるように意識しよう。二発目も変わらずどこかへ飛んでいった。もっと何十発も練習すればうまく撃てるのに。あと一発しかない、後ろで旧友が見ている。さっきのあいつは一発当てたのだ。あのよくわからん人形を手に入れたのだ。俺も外すわけにはいかない。あいつが当てた人形のあったところのひとつ隣の、小さいラジコンカーを狙う。これを当てれば十分恰好がつく。何か漫画で読んだコツを思い出し、息を止めて、銃口が静まったころ、引き金を引いた。

 

引いた瞬間、あれだけ気を付けていたのに手元がぶれた。弾はあらぬ方向へ飛んでいき、棚の端っこの、何かでかい箱に当たった。

 

「やった!」

「うおお!」

 

ガタゴト、とそいつが落ちる。店主が拾って、おめでとさん、と渡してくれる。よく見ると、駄菓子の箱だった。大きさの割に軽くて、中身はうまい棒みたいなあれらしい。

 

「すげー」

「こんなにいる?」

「いらん」

「いいな、俺もやるか」

 

お菓子は後でみんなで分けて食うことにした。僕の後にもう一人挑戦したがそいつはだめだった。もう満足したようで次の店へ歩いていく。

 

ぽつぽつと買い食いをする奴が出始めて、僕も何か食おうかなという気になった。次誰かが何か買いに行ったらそれについていこう。

 

はしまき、たこ焼き、わたがし、からあげ、ベビーカステラ、なんでもある。夏祭りに来るのは本当に久しぶりなので、こう出店を見ているだけでも飽きない。連れの一人が、からあげがいいな、と言った。僕はちょっとベビーカステラを食おうかと思っていたが、まあ夕飯にお菓子はどうなんだと思うので、一緒にからあげを食おうと思う。

店に近づくと、目の前に白い着物の女性が割り込んできた。どん、と二人してぶつかってしまい、すみませんと謝る。謝るが、女性はそこから離れようとしない。からあげを買うでもなく、どこかへ行くでもない。怒ってるのかな、邪魔だな、と顔を見てみると、まさか、人間ではなかった。狐だ。狐が、着物を着ている。狐が二本足で立って、人間のように着物を着ている。よく見ると白いのは着物だけでなく手足も首もそうである、白い毛皮を着た狐が、僕をじっと見つめている。

 

友人はそれに気づかないのか、彼女を避けて店主に話しかける。

「おっちゃん、からあげ小ください」

「だめ!」

言うや否や狐の彼女が制する。からあげのおっちゃんも友人もぎょっとして、彼女を見つめる。目を見開いて後ずさりする。友人と顔を見合わせて、おい、これ、狐、人間じゃない、とアイコンタクトをして、やはりこれは僕がおかしいのではなく実際彼女が異常なのだ、と改めて思った。

 

「からあげはだめ、別のにして」

彼女は僕らの前に両手を広げて立ち塞がる。

「な、なんでですか」

僕は聞き返した。

「あんた、タイムリープしてんの。抜け出したいなら、今すぐどこかへ行って」

「え、タイムリープ?」

「もう、いいから! からあげを食べたら、あんた死んじゃうの。死にたくないでしょ?」

「え、あ、その」

何が何やらわからないでいると、友人に脇をつつかれた。

「すみません、もう帰ります。失礼しました」

友人はそう言って店を去った。僕も後に続く。

 

十分離れたころ、友人は上着の前を開けて、中からからあげを二袋取り出した。

「こえー、超こわかった」

「うお、からあげあるじゃん。どしたの」

「お前が話してる隙に、おっちゃんがこっそり渡してくれた」

「まじか。お金は?」

「いいってさ。変なのが来てごめんな、っておっちゃん言ってたけど、別におっちゃん悪くないよな」

「ああー、まあね。やばかったね、タイムリープとか死ぬとか言ってて」

「死にたくないでしょ? ってね。からあげで死ぬってどういうこと」

「わかんない。ていうか狐の恰好してたけどあれ何?」

「そう! わからん、着ぐるみかな? めっちゃそっくりだった」

みんなと合流して、狐の恰好の変質者にからあげ食ったら死ぬって言われて大変だった、と話したら心配されつつも笑いの種になった。それでもからあげ食うんかい、と突っ込まれたりしたが、まあ美味しいのでしょうがない。

 

友人から貰ったからあげがどうやら大中小あるうちの大だったらしく、僕はそれでお腹がいっぱいになってしまった。みんなが買い食いするのを見ながら、なんとなく馴染めずにいて、空を見上げてみたり道行く人の着飾った姿を見たり、友人たちに話しかけられれば適当に返答したり、寂しくなったら話しかけてみたりして、それなりに夏っぽいなと思える時間を過ごしていた。

 

歩き疲れて、静かなところでみんな休んでいた。あれだけ喋ったせいか今は静かに、ただ同じ空間で同じ時間を過ごしているだけである。僕には意外とこれが心地良い。食べたものも消化されてきて今度は喉が渇いてきた。さっきドデカミンを買っていたやつがいるのでそいつに自動販売機の場所を聞こう。

 

しゃがみこんでいた僕は、立ち上がるとふいに眩暈に襲われた。立ちくらみ、にしては目の前が真っ白になって、これはなんかヤバいかもしれん、頭がくらくらして、吐き気がした。げほげほ、うえっ、と咳をする。

 

数秒すると気が楽になって、視界が開けた。辺りを見回すと、僕は自室のベッドの上にいるらしかった。

夏祭り 1

8月になった。やたらと暑いがアイスが美味い。陽が長くなって夜は涼しく、蚊やらセミやらがうるさいが窓を開けると空気が乾いて気分が良い。

 

せっかく夏だし、と張り切ってみんなやたらに予定を詰め込んでいる。そうか夏だし遊ぶ季節か、と思っていると、たまたま近くでお祭りがあるのを知った。自分も行こうかと思ったが今から誘える人もいない、まあでも時間もあるし明日も休みだし、自分も夏でハイになってるしで、散歩がてら一人で行ってみることにした。誰かに会えないとも限らない。

 

電車で四駅揺られながら暇そうな奴にラインを送ってみるが誰も来ない。途中で浴衣の人間が山ほど乗ってきて通勤ラッシュよりきつい満員電車になった。現地へ着くころ、俺はなんで一人で来てんだろうなとちょっと帰りたくなったりしてその旨をツイッターに呟いたりしたら、古い友人から返信が来て、どうやら偶然来ているらしく、そのグループへ混ぜてもらうことになった。地元の祭りだからそりゃいるよなと思いつつ、こんな機会でもなければ会わない奴らなので、なおさら夏祭りっぽくて楽しくなってきたなと思ったりした。

 

どこの何のあたりで待ち合わせ、と教えてもらったものの方向音痴なのでよくわからない。スマホの位置情報を使ってもなお僕は道に迷う。人混みやら出店の照明やらで頭が疲れてきて、また帰りたくなりながら、一応待ってもらってるんだし、と待ち合わせの場所を目指す。神社の狛犬の下、と言われてもその神社がわからない、さっき鳥居を見たがあれはたぶん違うんだろう、狛犬と言われても見つけられるか自信もない。だんだん心も折れてきて、疲れて腹も減ってきたので、適当にそのへんで何か食って元気を出そうかなと思ったりした。買い食いは夏祭りの華である。

 

買い食いは金がかかる。が夏祭りなのであんまりそういうことは考えない。コスパとか評判とかより最初にビビっと来たものを食おうと思った。あんまり考え込むとかえって決められなくて泥沼である。例えば今両手に見えてる店に、何か良さそうなのがあったらもうそれにしちゃおう、と思った。はしまき、りんごあめ、金魚すくい、射的、からあげ、たこやき。

からあげとか良いなと思った。身体が肉と油を欲している。男子学生の食嗜好なんてこんなものである。

看板を見ると大中小の三種類の値段がある。他にメニューらしきものはないのでこの店はからあげ一本で生きているらしい。

「からあげ中ください」

「あいよ」

言うやいなやいくつかのからあげを掴みあげて紙カップへざくざくと入れてくれる。僕は料金を払い(いくらだったかは忘れることにする)、上機嫌で歩いていく。

 

熱すぎてちょっと火傷したりしたがからあげはやはり美味い。間違いがない。思ってたより量があって、着くまでに食べきれるかなと思ったりした。地図を良く見るとわりと近くまで来ているらしく、なんだか急に元気が出てきた。

 

ぺたぺたする唇を舐めたりしながら、だんだん人通りが減ってきて、待ちあわせの神社は意外と出店も何もない、ちょうど待ち合わせるのに都合のいいとこにあるのかなと思ったりした。灯篭がある。でかい木がある。赤い看板に何かの歴史が書いてある。この調子なら狛犬の一匹や二匹くらいそのへんにいそうだ。

 

辺りをきょろきょろしながら歩いていると、番傘を持った白い女性が目に留まった。僕のことをじっと見ているので、何だこの人は、と思って顔を見ると、まさか、人ではなかった。白い毛皮の狐が、僕を見つめていた。

 

人間の骨に狐の皮を被せたような、立ち振る舞いは大人の女性のそれなのだけど、手足も顔も白い毛で覆われていて、細い目と黒い鼻ととがった耳はどう見ても狐のようで、けれど着物をしなやかに着こなして、番傘を肩にかけ、扇子を涼しげに扇いでいる。妖怪か、と思った。

 

「あんた、ちょっと」

「はい」

 

話しかけられて、ぎょっとしながらも返事をしてしまった。狐の口から、京都人のような声がする。

 

「待っててな」

 

狐の人はそう言うと、ひたひたと歩いてそばの灯篭の明かりの中に手を突っ込んだ。熱くないのか、と思ったが、抜かれた手の中には白い饅頭があった。

 

「よかったら、これ食べんさい」

「え 僕ですか」

 

狐が肉球を突きだして、僕に饅頭をやろうとする。何だ、何が何なのだ。急に。そもそもなぜ狐がいるのか、これは夢ではないのか。僕は疲れているのか? この饅頭は食っても大丈夫なものなのか、そもそもこいつと話していて僕は大丈夫なのか。どこか知らぬ世界へ連れて行かれはしまいか。

 

「ほら」

「い、いいです」

 

再度手を突き出されて、僕はさっと逃げてしまった。早足に、というか走り去ってしまった。あんなもの食っては、それこそ妖怪の世界へ連れていかれてしまう。

 

しばらく走って、振り返ると姿は見えなかった。不審者に会ったら逃げるの一手である。もしくは僕の幻覚かもしれないし、夏祭りゆえの凝った仮装かもしれない、まあ真相はわからないが、次に人に会ったら話してみようと思った。僕以外の人にはあれは見えていなかったのだろうか? するとなおさら幻覚のようだ。

 

走り疲れて荒い息をする。胃から空気がこみあげて、さっきのからあげ美味かったな、と思い出しだりした。そろそろ合流地点に着く。会ってどうなるのかわからないが、古い友人に会うのはやはり楽しみだったりする。夏祭り、まだ来てからあげ食ったくらいで、大したこともしていない。夜はこれからである。

 

【対談】~芸で生きるということ~   書家・ねこ田にゃん三郎 × プロ音ゲーマー・NYN-5

本日出会ったのは、片やニボシ流の長にして、全国に数百匹の弟子を持つ大書道家。片や、若者世代から絶大な支持を集める新進気鋭の実力派ゲーマーという、年齢も、活動のフィールドも、その職業の歴史も全く異なる、決して接点を持つことのないであろう二人。

共に第一人者として、それぞれの世界をリードしてきた彼らにしか見えない景色を存分にお楽しみいただこう。

 

ーーー本日はお忙しい中ありがとうございます。早速なのですが、自己紹介からお願いします。

 

NYN-5:ええと、初めまして。NYN-5です。一応プロの音ゲーマーとして活動させていただいてます。

 

ねこ田にゃん三郎:はじめまして。今日はめずらしい機会をどうもありがとう。私はニボシ流の書を書いている書道家です。わたしは書を書いて販売することで整形を立てているわけですけれども、その、音ゲームというのは、どういう仕組みでお金になるんですか?

 

NYN-5:主に広告です。僕のプレイする様子をインターネットで配信して、そこに広告を何秒かずつ載せて、それを見てもらう。後は大会の賞金もあるんですが、これはまだそんなに規模が大きくなくて。知名度の割にはそこまで稼げてるっていうわけでもないです。だからプロって言っても、ギリギリ生計立つくらいというか、そんなちやほやされるようなものというより、無理やり名乗ってるというかみんながそう呼んでるだけというか。

 

ねこ田:なるほど、面白い。それは正解のないヒーローのような生き方ですね。私は書家の父のもとで育ちましたから父がいわゆるロールモデルでした。いまでは当たり前になりましたが、こういう雑誌だって、ストリートでよくやってるにゃん芸だって、彼らも昔は「そんなことで稼げるものか、生きてゆけるものか」と言葉の石を投げられていたようです。あなたも、そういう生きづらさのようなものを感じたことはありますか。あるいは、迷いだとか。

 

NYN-5:迷いみたいなものは、いつもありますね。これでいいんだろうか、音ゲーで暮らしていけるんだろうかって不安は。けれど周りに同じように暮らしてる人がいたり、ファンの人に応援してもらったりして、一応こういう生き方にも居場所はあるのかな、って思ってたりします。普段は、目の前のことで精いっぱいであんまりそういうこと思わないんですけど、ふとしたときにちょっと不安にはなりますね。まだ音ゲーには、書道ほど歴史や伝統みたいなものがなくて、道徳的なバックボーンがないというか、僕らだけ浮いてるような感じがしてしまって。

 

ねこ田:そうですか。先人がいないということは、そのままの意味で”まだ道ができていない”ということですものね。とすればあなたが歴史を紡いでいることになりますが、道徳、と言いますと?具体的にはどういった場面で回顧的になられますか。

 

NYN-5:やっぱり、他の業界の方と比べたときにそう感じてしまうというか。良くも悪くも先輩がいないので、縛られることもないんですが、同時に困ったときに導いてくれる人もいなくて、例えばコミュニティで問題が起きたときに、僕らで解決しなきゃいけない。何が正しいかも僕らで決めなきゃいけないというか。この業界で何を守って何を変えていくのか、まさに僕らが決めてるんだと思うと、心細いような気がしてしまって。これは偏見かもしれないのですが、書道の世界は、何年も何千年も昔からの歴史を大事にしてるイメージがあって、少し羨ましいです。頼るものがあるというか。

 

ねこ田:ああ。その意味では、私たちは真逆でしょうね。書道は、気の遠くなるほど昔から先人たちが追求してきて、もう草原は食い尽くされたかのようです。これは音楽とか、他の芸術でも言えるのかも知れないですが、私たちはいまいる所のまわりを見渡して、隣にまだ食べていない草あればそちらへ移る。そのようにして、それをもって進化だとしてきました。隣にしか行けないのです。ただ、こういったことはもうそちらでも起こりはじめているでしょうが。

 

ーーー今、お二人の立ち位置の違いというものが浮き出てきましたね。想像上で構いませんので、お互いの職業の大変そうだなと感じる部分を教えてください。

 

NYN-5:書道って、人の見てる前で大きい紙に書くやつあるじゃないですか、あれは緊張しそうって思います。失敗しても直せないし。

 

ねこ田:慣れると緊張しませんよ。ちゃんと準備を怠らなければ緊張はしません。スピーチと同じですね。まあミスはあり得ますが、歌のメロディをほんの少し外してしまうようなもので、特段のミスをすることはまあないのです。ただ若手の頃に一度だけ二文字目から書きはじめたことがあって、一画目をすぐ上書きしてごまかしたことはあります。あれはひどかった(笑)当時の好きな人のことを考えていて…。音ゲームこそ、プロは一曲で一度もミスできなそうですが。

 

NYN-5:二文字目から(笑)すごいですね。音ゲーはもう身体に染みついているものなので、本番でやれるかどうかというよりは、それまでの練習が物を言うというか、体調さえよければそんなに失敗しないです。と言うと書道にも通じるものがあるのかもしれないですね。

 

ねこ田:なるほどなあ。まあ堅苦しい話になってきましたが、ぶっちゃけモテますか、音ゲーマーは?

 

NYN-5:ええ、いや。そんなにモテる仕事でもないと思います。さすがにバンドマンみたいにキャーキャー言われることはないですね。地味ですし。書家はどうですか。

 

ねこ田:まあ仕事としてはそうかも知れませんが、あなたはよくNyanTubeにも良く顔を出しているらしいじゃないですか。そういうカリスマ性みたいなところで人が寄り付いたりしませんか。書道家はね、ちやほやされますね。書道好きなんてそうそういるものではないですが、みなさん教養がある方ばかりで。私の妻もそうです。

 

NYN-5:まあ、見てくれてるファンの方々にはありがたいと思ってますが、それと恋愛とはまた別なので。ねこ田さんはNyantubeで配信とかなさらないんですか。

 

ねこ田:してますよ。ご存知なかったですか。あなた、不勉強ですね。

 

NYN-5:そうだったですか。失礼しました。あの、どんな配信をなさってるんですか?

 

ねこ田:え?字を書いているに決まっているでしょうがい。子供のための書道技術の解説だよ。あなた、ところで帽子をかぶっているが、それもおかしくないか?人前で。ちょっとそこの人、墨をたくさんもって来てもらえるか?こいつで猫拓を取ってやる。

 

NYN-5:帽子は、僕のユニフォームなんであります。確かに無礼かとは思いますが、おい、やめたまえ、離せ、おい!誰か!離せ!この野郎!

 

ーーーねこ田さん、なにとぞお怒りをお静めください。NYN-5さんにはどうしても帽子をとれない事情がおありというか、その…

 

ねこ田:…はっ。すみません。取り乱してしまいました。申し訳ない。私はマタタビ乱用者でして。あ、ここは記事にはしないでくださいね。一旦吸わせてください。すみません。……スー、ハースーハー…。ああ、生き返った。大変失礼しました、帽子をお返しします、NYNー5殿。あれ、どうかしましたか、NYN-5殿?

 

NYN-5:ウオオオオオッ、ウッ、闇が、ウウッ、早く、かぶ、被せてくれ、ググッ、ウグッ、ウオオ!うニャアアアアア!フッ、フッ、ギニャア!シャーッ!シャーッ!キイイ!(奇声を発しながら後頭部を抑え、のたうち回る)

 

ーーーだだ、大丈夫ですか??どうされました!?

 

NYN-5:ギニャア!キイ!フーッ、フーッ、フシャアア!ウニャア!ギイ、ギイ、グウゴロロロロ、ニーッ!ウナア!ウノオオ!グニャア!ヌーッ!ヌーッ!(狂ったように部屋を駆け回り、あたりへ威嚇する)

 

ねこ田:くそ、なんだこの臭気は!うう、吹き飛ばされそうだ…ひとまず、書道の力で鎮める!くそ、この帽子は邪魔だ、被っておけ!(帽子を投げてNYNー5のような何かにかぶせる)

 

NYN-5:グニュウウ、フゴフゴ、グギギギギ……(後頭部から黒い腕のようなものが生え、帽子を受け止める。その傍には赤い目のようなものが光って見える)

 

ねこ田:(筆と墨汁を受け取る)貴様、猫ではないな…静まりたまえ!書道の力とはすなわち字の密度・造形美の総合得点なり!喰らえ!四文字熟語、”起承転結”!!

 

ーーーえ???え????なんですかこの展開は!?ドッキリですか???いや、それにしてはほんまもんの殺気や、、、

 

NYN-5だったもの:グオオオオア!!(黒い腕が目を抑え、苦しみのたうつ)

 

ねこ田:ふん、効いておるな。それは、お主に教養がない証拠だ!百万回生まれ直して学び直して来たまえ。とどめだ、これは知るまい!””隔靴掻痒””!!!

 

NYN-5だったもの:フニャアアアア!!!!!ギイ!ギイ!ウググオゴォ、ウギィ、ウゴォ!ニイイウオオオアアアアアアアア!ピュウ(けたたましい叫び声を上げながら苦しんだ末、身体ごと消滅し虚空へ消え去る)

 

ねこ田:隔靴掻痒…痒かゆいところに手が届かないように、はがゆくもどかしいこと。 思うようにいかず、じれったいことだ。靴の上からは足をかけないようにな。……覚えておけ。まあ、次の世では、一緒に墨を擦ろうじゃないか。

 

NYN-5だったものの欠片:(物も言わず風に吹き飛ばされる)

 

ーーーえ、えぇと…。何があったのか…? 先生が筆を握った途端、猛烈な殺気が出て、気が付いたらNYN-5さんが塵芥になっていて…何が何だか私にはわかりません…。 もし、差し支えなければ、ここからは、ねこ田にゃん三郎先生の単独インタビューという形に切り替えさせていただきたく思いますが…

 

ねこ田:そうですね。まあテーマは”芸で生きるということ”でしたかな?芸は、身を助くと言いますが、あれは本当です。飯にありつけたり、敵を排除したり、幸せになれたり、色々な意味で我々を助けてくれる。音ゲームだろうと書道だろうと同じです。”猫はコタツで丸くなる”時代は、人間が知らぬ間に、もうとっくに終わっているのです。1億猫総活躍社会、私はそのみんなの夢の実現に芸というものが大きく噛んでいると思いますよ。

 

ーーーいいお言葉を頂けましたので、これにて終わりとしたいと思います。本日は貴重なお時間をどうもありがとうございました。

 

ねこ田:こちらこそどうも。

 

 

NYN-5の残留思念:(一体、場が丸く収まったと思っているのは彼らだけであろう。肉体が滅びても、私はいずれ蘇る。新たな猫に寄生して、どこへだって姿を表し、いつかこの世を食い尽くしてやる。しかしそれには準備がいる、しばらく休むのだ、そうして新たな身体を手に入れたら、最初にあのねこ田とかいうジジイ猫を喰ってやるのだ……)

 

 

 

【猫対談】これからの"マチねこ"のあり方とは?〜時代の変遷からねこBさんが語る〜

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 「媚びるか、野良か」が100万部のベストセラーとなり、大きな社会現象となったことは、古参の読者にはまだ記憶に新しいかも知れない。しかしそれはもう10年も前のことだ。

"マチねこ"という言葉が生まれたのもその頃。当時、ねこたちのライフスタイルは極端化し、彼らの生き方は飼い猫になるか、山で生きるかの二種類しかなかった。街で中途半端に文明に晒されて生きるのは"ダサい"という時代が、確かにあった。

時が経ち、ステレオタイプは嘘のように消え去ったが、かつて"マチねこ"と嘲笑されきた彼らは今、都会で何を見て、何を感じているのだろうか。

本稿では、街で生まれ今年15になる大物、ねこBさんにお話をお伺いした。

 

ーー今日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

 ねこB:よろしくお願いします。

 ーーとても良い毛づやされてますね。なにか御手入れされてるんですか。

 ねこB:そうかい?ありがとう。特に何かしてるってわけじゃないけど、まあ、昔より良いご飯が食べられるようになったからね。

 ーーということは昔の暮らしはかなり苦しかったと?

 ねこB:苦しかったよ。朝から晩まで何も食べられないなんてこともよくあった。一匹のにぼしを取り合って肉球が黒くなるまでケンカしたこともあった。今の子は良いよね、ちょっとにゃあにゃあ鳴けば優しいお姉さんにいくらでも御馳走してもらえるから。人間が豊かになったから僕たちも豊かになったってのはあると思う。

 ーーその豊かさに対してBさんは賛成ですか、反対ですか。

 ねこB:どっちでもない。賛成も反対もないよ。時代は変わっていくものだから、僕らにはどうしようもない。時代が変われば僕らも変わらなきゃいけない。自分だけ変わりたくないって昔にしがみついてても、時代のほうに置いていかれるだけだから。だから、豊かになったものはそれで良いと思うよ。賛成というか、賛成せざるを得ないって意味で。

 

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ーーねこBさんから見て、……

ねこB:Bさん、でいいよ。

 ーーでは、Bさんから見て、時代と共に大きく変わったと感じるものは豊かさ以外に何が挙げられますか。

 ねこB:うーん、人かな。みんな元気がなくなったね。豊かにはなったけど、疲れてる感じがする。昔は子供はぎゃあぎゃあ言いながら走り回ってたし、人通りも多かった。今はみんな家に籠って出てこないのかな。スマホがいけないね。昔は昼寝のできる静かな場所を探すのにも苦労したけど、今はどこに行っても誰もいない、公園も「野球禁止」と書かれてから子供がいなくなって、すっかり僕らの場所になっちゃった。あれだけ広いと、かえって居心地が悪いよ。

 ーーその人間の元気のなさ、みたいなものが猫たちに与えた影響はどういったものでしょう。

 ねこB:影響ねえ。居場所が増えて住みやすくはなったけど、それ以上に寂しくなったよ。ナワバリ争いのケンカもなくなったけど、おかげで今の若い子には爪の研ぎ方も知らないのがいるんだ。人との関わりも少なくなって、近所じゃ床屋のおじさんとだけ仲良くて、他の人には顔も見せないってのもいる。やっぱりお互いよく顔を合わせたほうがいいと思うよ。僕らも人も。

 ーーではBさんの思う、理想の人の在り方、猫の在り方、そして人と猫の関係を教えてください。

 ねこB:やっぱりみんな仲良くが一番だよ。昔はよく緑の服の男がやってきて、僕らの友達も何人か保健所へ連れていかれてそれっきり姿が見えないなんてこともあって、どうやって彼らと戦うか考えたりもしたけど、今はそういうことはなくなって僕らは僕らの居場所を守っていけるようになって、じゃあそれで平和になったかっていうとそうでもなくて、人から迫害を受けなくなったぶん構ってもらうこともなくなっちゃった。魚屋のゲンさんもタバコ屋のトメさんもいなくなって、若い人たちは僕らに構ってくれないし、僕らのほうも人間を怖がって避けるようになっちゃった。お互い避けて見ないふりして過ごすよりは、少しくらいお互い鼻についても顔を合わせて話し合ってやっていくほうが健全じゃないかと思うよ。コミュニケーションってそういうことじゃないかと思う。痛みを避けてちゃ得るものもないから。本当は、喧嘩もせずに仲良くやっていければいいと思うけど、今はまだ歪でも不器用でもいいから、もう少し人も僕らも外へ出てお互い顔を合わせたほうがいいと思う。ほんの少しの、目を合わせるくらいのコミュニケーションでも、ないよりはあったほうがいいから。

 ーーBさんから見て、今日の私とBさんのコミュニケーションは十分なものでしたか。

 ねこB:バッチリだね。うまく話せたと思うよ。少なくとも僕は。

 ーー光栄です。私もBさんととても有意義なお話ができて満足です。こういうコミュニケーションをしてくれる人とネコがこの先増えてくれるといいですね。最後にこれを読んでいる人とネコ、それぞれに対してメッセージをお願いします。

 ねこB:じゃあまず人間のみなさんに。猫ってのは思ったより怖くない。みんな怯えていて、いつも眠くて、たまにお腹を空かせていて、日当たりのいい場所を探している。それだけだ。全ての猫がニンゲンの首元を狙って爪を研いでいるなんてのは一昔前の話さ。僕らには僕らの居場所があって、それを侵しさえしなければいくらでも君らに構ってやれる。ゆっくりでいいから、僕らとの付き合い方を知ってくれれば嬉しいなと思ってる。それから猫たちへ。とにかく走れ!特に若いもんは運動不足だ。後ろ足の筋肉というのは全ての生活の源で、力強く走ることが深い昼寝の元にもなるのだ。身体が鈍らないように気をつけろ、さもないといざというときに重たいトラックに轢かれてカマボコみたいにされてしまうかもしれない。身体は資本なのだ。よく走りたまえ。まあこれは、人間にも当てはまるかもしれないね。

 ーー厳しい中に非常に愛を感じるお言葉、そして貴重なお時間をどうもありがとうございました。

 ねこB:こちらこそありがとう。

 

取材・文:ねこってる  撮影:カメラねこ

 

 

はじめに

おはようございます。ねこBと申します。

このたび三人でブログを開設することになりました。

わたくし「ねこB」の他にもあと二人います。

彼らは彼らでなんか自己紹介の文を書くのか書かないのかよく知らないけど、まあ、よろしくお願いします。

 

何を書くのかは何も決まってないので、お楽しみに。

どうなるかまじでわかんないんですが面白くやっていければいいなと思ってます。

個人的には無理せずなんかやってければいいなと思ってるので、たまに遊びに来てください。

 

 

ねこBより