【猫対談】これからの"マチねこ"のあり方とは?〜時代の変遷からねこBさんが語る〜

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 「媚びるか、野良か」が100万部のベストセラーとなり、大きな社会現象となったことは、古参の読者にはまだ記憶に新しいかも知れない。しかしそれはもう10年も前のことだ。

"マチねこ"という言葉が生まれたのもその頃。当時、ねこたちのライフスタイルは極端化し、彼らの生き方は飼い猫になるか、山で生きるかの二種類しかなかった。街で中途半端に文明に晒されて生きるのは"ダサい"という時代が、確かにあった。

時が経ち、ステレオタイプは嘘のように消え去ったが、かつて"マチねこ"と嘲笑されきた彼らは今、都会で何を見て、何を感じているのだろうか。

本稿では、街で生まれ今年15になる大物、ねこBさんにお話をお伺いした。

 

ーー今日はお忙しい中、インタビューをお受けいただきありがとうございます。よろしくお願いします。

 ねこB:よろしくお願いします。

 ーーとても良い毛づやされてますね。なにか御手入れされてるんですか。

 ねこB:そうかい?ありがとう。特に何かしてるってわけじゃないけど、まあ、昔より良いご飯が食べられるようになったからね。

 ーーということは昔の暮らしはかなり苦しかったと?

 ねこB:苦しかったよ。朝から晩まで何も食べられないなんてこともよくあった。一匹のにぼしを取り合って肉球が黒くなるまでケンカしたこともあった。今の子は良いよね、ちょっとにゃあにゃあ鳴けば優しいお姉さんにいくらでも御馳走してもらえるから。人間が豊かになったから僕たちも豊かになったってのはあると思う。

 ーーその豊かさに対してBさんは賛成ですか、反対ですか。

 ねこB:どっちでもない。賛成も反対もないよ。時代は変わっていくものだから、僕らにはどうしようもない。時代が変われば僕らも変わらなきゃいけない。自分だけ変わりたくないって昔にしがみついてても、時代のほうに置いていかれるだけだから。だから、豊かになったものはそれで良いと思うよ。賛成というか、賛成せざるを得ないって意味で。

 

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ーーねこBさんから見て、……

ねこB:Bさん、でいいよ。

 ーーでは、Bさんから見て、時代と共に大きく変わったと感じるものは豊かさ以外に何が挙げられますか。

 ねこB:うーん、人かな。みんな元気がなくなったね。豊かにはなったけど、疲れてる感じがする。昔は子供はぎゃあぎゃあ言いながら走り回ってたし、人通りも多かった。今はみんな家に籠って出てこないのかな。スマホがいけないね。昔は昼寝のできる静かな場所を探すのにも苦労したけど、今はどこに行っても誰もいない、公園も「野球禁止」と書かれてから子供がいなくなって、すっかり僕らの場所になっちゃった。あれだけ広いと、かえって居心地が悪いよ。

 ーーその人間の元気のなさ、みたいなものが猫たちに与えた影響はどういったものでしょう。

 ねこB:影響ねえ。居場所が増えて住みやすくはなったけど、それ以上に寂しくなったよ。ナワバリ争いのケンカもなくなったけど、おかげで今の若い子には爪の研ぎ方も知らないのがいるんだ。人との関わりも少なくなって、近所じゃ床屋のおじさんとだけ仲良くて、他の人には顔も見せないってのもいる。やっぱりお互いよく顔を合わせたほうがいいと思うよ。僕らも人も。

 ーーではBさんの思う、理想の人の在り方、猫の在り方、そして人と猫の関係を教えてください。

 ねこB:やっぱりみんな仲良くが一番だよ。昔はよく緑の服の男がやってきて、僕らの友達も何人か保健所へ連れていかれてそれっきり姿が見えないなんてこともあって、どうやって彼らと戦うか考えたりもしたけど、今はそういうことはなくなって僕らは僕らの居場所を守っていけるようになって、じゃあそれで平和になったかっていうとそうでもなくて、人から迫害を受けなくなったぶん構ってもらうこともなくなっちゃった。魚屋のゲンさんもタバコ屋のトメさんもいなくなって、若い人たちは僕らに構ってくれないし、僕らのほうも人間を怖がって避けるようになっちゃった。お互い避けて見ないふりして過ごすよりは、少しくらいお互い鼻についても顔を合わせて話し合ってやっていくほうが健全じゃないかと思うよ。コミュニケーションってそういうことじゃないかと思う。痛みを避けてちゃ得るものもないから。本当は、喧嘩もせずに仲良くやっていければいいと思うけど、今はまだ歪でも不器用でもいいから、もう少し人も僕らも外へ出てお互い顔を合わせたほうがいいと思う。ほんの少しの、目を合わせるくらいのコミュニケーションでも、ないよりはあったほうがいいから。

 ーーBさんから見て、今日の私とBさんのコミュニケーションは十分なものでしたか。

 ねこB:バッチリだね。うまく話せたと思うよ。少なくとも僕は。

 ーー光栄です。私もBさんととても有意義なお話ができて満足です。こういうコミュニケーションをしてくれる人とネコがこの先増えてくれるといいですね。最後にこれを読んでいる人とネコ、それぞれに対してメッセージをお願いします。

 ねこB:じゃあまず人間のみなさんに。猫ってのは思ったより怖くない。みんな怯えていて、いつも眠くて、たまにお腹を空かせていて、日当たりのいい場所を探している。それだけだ。全ての猫がニンゲンの首元を狙って爪を研いでいるなんてのは一昔前の話さ。僕らには僕らの居場所があって、それを侵しさえしなければいくらでも君らに構ってやれる。ゆっくりでいいから、僕らとの付き合い方を知ってくれれば嬉しいなと思ってる。それから猫たちへ。とにかく走れ!特に若いもんは運動不足だ。後ろ足の筋肉というのは全ての生活の源で、力強く走ることが深い昼寝の元にもなるのだ。身体が鈍らないように気をつけろ、さもないといざというときに重たいトラックに轢かれてカマボコみたいにされてしまうかもしれない。身体は資本なのだ。よく走りたまえ。まあこれは、人間にも当てはまるかもしれないね。

 ーー厳しい中に非常に愛を感じるお言葉、そして貴重なお時間をどうもありがとうございました。

 ねこB:こちらこそありがとう。

 

取材・文:ねこってる  撮影:カメラねこ